前回記事では”スポーツアナリスト”を3つのタイプに分類することを試みました。

今回は、分析のアプローチについて面白い記事を見つけたので、ここで紹介していきたいと思います。
想定読者
- スポーツ分野のデータ分析業務に興味のある方(主に学生)
分析には演繹法と帰納法の2つのアプローチが存在する
取り扱う記事はコーチングクリニック2018年7月号に掲載されている、『競技力の本質がわかれば分析・解析が生きてくる』という記事で、スポーツバイオメカニクス、スポーツ工学が専門の方が書いたものです。以下で簡単に記事の概要を説明していきます。
記事内では、スポーツ現場で行われる分析は大きく次の2種類に分類できるとし、
- 物理的法則に則って可視化・定量化するもの
- 膨大なデータを採取して特徴や傾向を検討するもの(スポーツアナリティクス)
その後者をスポーツアナリティクスであるとしています。
この2つのアプローチの大きな違いは、前者が『演繹法』であるのに対し、後者が『帰納法』であること。
演繹法は、前提となる法則や定義を基に結論を導き出すものです。
確かにスポーツバイオメカニクスの分野では物理法則に則っていることを前提に分析をします。
このアプローチは、例えばAならばB、BならばCという普遍な事象の前提があったときに、AならばCであると結論付けるような推論の仕方です。
一方で、帰納法は類似の事例を基にして、法則を導き出すものです。
スタッツなどの結果を分析するいわゆる統計的な分析ですね。まさにビックデータを集めてAIに分類させるなどはこちらの手法になりますね。
2つの手法の違いとは、、、?
この2つの手法の違いをスポーツの分析に当てはめた場合に、一番大きな違いとなるのが、帰納法の場合では『人間の動きがどうあるべきか』という答えを導くことができないということです。
帰納的なアプローチが膨大なデータを用いるのに対して、演繹的なアプローチは、競技力の本質(例えば、スピードスケートの分析の場合は空気抵抗を減らすこと)を理解し、見るべきポイントを絞った分析を行うといった違いもあります。
記事内ではスポーツアナリティクスの現在地として
- 膨大なデータを採取し、眺めている段階にある。ではどうすれば良いか?を導けるようになるにはまだまだ時間がかかる。
- 採取した膨大なデータの海に溺れている状況であることは否めない。
- データをどのように活用するかを真剣に考えている人が少ない。それを考えさせる教育も確立していない。
と解決していくべき課題を指摘しています。
スポーツアナリティクスという学問が抱える課題かはさておき、スポーツの強化の現場の観点では頷ける課題ですね。。。データを取ることが目的になってしまっている点が本当に多い、、、。
そのため、これからのスポーツ分析は競技力の本質は何かを見極めた上で、この2つの分析法をうまくミックスして活用していくことが必要とのことでした。
終わりに
修士まではスポーツバイオメカニクスを専門にし、現在は画像解析(動画像認識)のアプローチから研究をしている身からすると、両者は”見ているものが違う”印象を少なからず持っていたのですが、自分の中ではうまく言語化できないでいました。
今回の記事ではその違いがうまく言語されていて納得感がありました。
もちろん今回はあまり触れられていなかった演繹法(特にバイオメカニクスの手法)の課題も自分の中では持っていたりしますが笑
せっかく両方のアプローチを学んでいる身なので、
- 過程はわからなくてもある程度高精度で予測を行えればOK(特に間違いを許容できるタスク)の場合
- 過程や原因そのものを明らかにすることを目的とする場合
それぞれで適切な手法を選び、時にはミックスさせて現場に知見を還元できる人材になりたいと感じた次第でした。
実際のところ、帰納的なアプローチで研究していると、どういうふうに改善したら良いかまでわからない研究ってスポーツで意味あるの?と突っ込まれるケースがよくあるんですよね笑 僕自身はそれでも意味のあるタスクを選んでいるつもりなので、伝え方次第だと思っていますが、、、笑
ちなみに、本記事では帰納的アプローチを取るものをスポーツアナリティクスとしています。しかし、スポーツアナリスト協会のPickUpAnalystのページには、スポーツバイオメカニクスを専門にしている方もいます。
また、スポーツアナリストを名乗ってはいませんが、日本スポーツ振興センター/国立スポーツ科学センターにもトップアスリートを対象に科学的なサポートを行う研究員やスタッフがいます。(参考:スタッフ一覧ページ)
この中には、スポーツバイオメカニクスの観点からサポートを行っている方も多いです。
そのため、このあたりの定義は紹介した記事のものが全てではない印象を受けます。
スポーツで分析に携わりたいけれど、どのような分野を学べば良いかわからない!という方は、この2つのアプローチの違いを知った上で、分野を選択するのも良いかもしれませんね!