第Ⅰ部だけでパート3になってしまった。。。
前の記事はこちらから。


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TESに芸術的側面は介在するのか
次の話題はかなりミクロな点にフォーカスしてしまうのだが、自分の研究としての関心(フィギュアスケートのパフォーマンスの定量化)にも少し関わってくるので触れる。
本文中に以下の記述がある。
最も引き合いに出されるフィギュアスケートの演技も「技術点」=TESと「演技構成点」=PCSの2つの採点項目によって評価される。
技術点は技の難度と質によって算出される得点であるため、ここに「芸術的」な価値を見出すことはできない。 pp.49
フィギュアスケートの採点方式の詳細な解説についてはここでは割愛するが、TESには技の出来栄え点であるGOEが含まれている。
例えばジャンプの出来栄え点の評価項目には以下が明記されている。
1)高さおよび距離が非常に良い(ジャンプ・コンボおよびシークェンスでは全ジャンプ
2)踏切および着氷が良い
3)開始から終了まで無駄な力が全く無い(ジャンプ・コンボではリズムを含む)
4)ジャンプの前にステップ,予想外または創造的な入り方
5)踏切から着氷までの身体の姿勢が非常に良い
6)要素が音楽に合っている
(国際スケート連盟コミュニケーション第2254号
シングルおよびペア・スケーティング2019-2020シーズンにおける価値尺度(SOV),難度レベル(LOD),GOE採点のガイドライン より)
個人的には、ここの4点目、6点目については、いわゆる「芸術性」が求められていると考えていた。
つまり、「より客観的な技術評価項目であるTESにおいても、なお芸術性が評価項目に存在する」これこそがフィギュアスケートなのだ、という認識を個人的には持っていたのである。
しかし、著者はこの点を明確に否定している。これはかなーーり、面白い。
もう少し掘り下げる。
TESにはコレオシークエンスも含まれる。基礎点は全ての選手で同じで、GOEのみで評価が決まるものだ 。
評価基準は以下のように明文化されている。
1)創造的および/またはオリジナリティがある
2)要素が音楽と合っており,プログラムのコンセプト/特徴を反映している
3)エネルギー,流れ,出来栄えが十分で,開始から終了まで無駄な力が全く無い
4)氷面を十分にカバーしている,あるいは,パターンが興味深い
5)十分に明確で正確
6)全身の優れた関わりとコントロール
これは評価基準に芸術性が多分に含まれていると考えていた。もはやジャンプのGOEの比ではない。
しかし、繰り返すが著者の主張は以下である。
「技術点は技の難度と質によって算出される得点であるため、ここに「芸術的」な価値を見出すことはできない。」
かなーーり面白い。(大事なことなので繰り返す。)
誤解されないために明文化しておく。何も著者の意見が間違っている!という話をするつもりは全くない。
ここでの自分の解釈は、
著者は、「ジャンプの出来栄え評価やコレオシークエンスの評価であっても、かなり定量的に評価できるものだと捉えているのではないか?」ということだ。
つまりこの採点項目はフォーマリスティックであり、確立された技の追求と同義。芸術性とは無関係にされるものという認識なのではないか?
この発想は自分の頭になく、かなりしびれた。
というのも、自分自身は特にジャンプのパフォーマンス評価に興味があるのだが、GOEの評価項目4や6のような芸術性を定量化するのは競技の本質的にいかがなのか?そもそも芸術の定量評価は不可能ではないか?と、諦めていた部分があるからだ。
しかし、少なくとも著者はそのように考えてはいないのではないか?
ミスリーディングなのかもしれないとも思ったが、それを裏付けた体験があった。
去年の氷上スポーツ学会後の懇親会で、フィギュアでのAI採点の可能性について著者とお話をさせて頂いたのである。そのときの言及をこのタイミングで思い出した。詳細を語るのは控えておくが、そのあたりとの整合性が本書のこの記述からも少し見受けられたのである。
著者がこのGOEの基準を読んだ上でもなお、何故芸術的な価値を見出すことができないとの結論に至ったのかまでの思考プロセスは、本書の今までの章では言及がされていない(ように思う)。
このあたりは是非一度詳しく解釈を伺いたい!と感じた。
前半に比べて、かなり長くなってしまいました。。。(ので分割しました。)
このような記事を書いていると、やはり思考の整理には役に立つなぁと思います。引き続き本書を読み進めていき、気がついたことをシェアしていこうと思います。
他のみなさんがどのように本書を読んでいるのかも気になります。色々な捉え方ができると思うので、是非うまくコミュニケーションできたらと思う次第ですが、トラブったこともあったので、、、うまい方法を模索中です。。。。。自分のやりたいようにやればいいのかなとも思ってきましたが笑
しかしめちゃくちゃおもしろいですね。この本!!!
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何故TESに芸術的な価値を見出されているのですか?どのような価値でしょうか。
町田氏の本と、ここであげられているジャンプのGOEの基準を読みましたが、GOEは美的(aesthetic)評価として加算されていると捉えています。芸術的(artistc)評価と考えられるのでしょうか。
器械体操のようなフォーマリスティックスポーツで、新しく美しい技が開発されたとして、芸術表現になるでしょうか。
また、アイスダンスを見ていると、特にパターンダンスで顕著ですが、リズムやタイミングの一致はかなり厳しく技術判断されていると感じます。感情や物語性のようなものではありませんが、音楽性を難度や質で評価していると受け取っています。
創造性、音楽性などは、個々のエレメンツにおいて技術があると認められるものを判断要素として、TESで評価しているのでは。
芸術性が求められるとしたら、それはプログラム全体のPCSで評価しています。
個々のエレメンツのTESに加算されるものではないと思います。
第Ⅰ部だけの感想のようなので、読了されてからの見解をうかがいたいです。
コメント頂きまして誠にありがとうございます。
私は本書を読むまで、GOEの評価項目を見た限りでは、TESであっても一定の芸術性が含まれていると解釈していました。
(決してこのような芸術的価値がありますと主張できるレベルではありません。字面からそのように捉えていたというだけにすぎません。)
コメント主様の仰るとおりで、本書ではこれらを”美的”と捉え、”芸術性”とは別なもの=”フォーマリスティックなもの”としている点は理解しております。
私自身は本書を読むまで、著者の仰る”美的”と”芸術性”の区別ができておらず、このような発想に至っていなかったため、興味深く読ませて頂いた次第です。
例にあげて頂いたアイスダンスのパターン(リズムやタイミング)を想像すると、イメージがつきやすいと感じました。勉強になりました。
コレオシークエンス=フォーマリスティックという点では、自分のなかでまだ少し乖離がありました(しかし、コレオには強くこのような芸術的価値がありますと主張できるレベルのものではありません。)コメントを頂き、こちらもアイスダンスをイメージすると見えてくるものがあるのかもしれないと感じました。
読了にかなり時間がかかると感じているので、現段階でのコメントをさせて頂きました。コメントを頂いたことでより学びが深まったと感じています。ありがとうございます。
引き続き本書を読み進めていくことで、アーティスティックスポーツについて理解を深めていきたいと思っています。
失礼しました、(artistc)→(artistic)です