フィギュアスケート

朝日新聞記事から学ぶフィギュアスケート研究

こちらの記事の内容を把握した上でお読みください

物議を呼んだ朝日新聞記事

 

平昌オリンピック開幕の少し前1月18日、コアなスケートファンの間で5回転ジャンプの可能性について書かれた朝日新聞の記事(フィギュア、5回転ジャンプは可能? 靴の進化が追い風 大岩ゆり)が”話題”になっていました。

 

この”話題”の意味はスケオタの方ならわかっているかと思いますが、確かに色々と突っ込みたくなる記事であったことは言うまでもありません。物議を呼んだのは中京大学湯浅教授の分析に基づいたと言われる下の図です。

        

上記記事より引用

おそらくこの記事は、羽生選手と宇野選手を例に挙げ、各選手の4回転ジャンプの回転速度・滞空時間などの物理量を先行研究である02年のオリンピック選手のものと比べ、今の選手は5回転に近づいている!という言及をするのが目的だったと思います

しかし、両選手のデータを横並びに見せていたため、羽生VS宇野の構図を意図せず(?)作り出してしまいました。

しかも、図を見て頂ければわかりますが、この値が五輪王者羽生選手のものよりも、宇野選手のもののほうが大きいのです

まるで”宇野選手のジャンプのほうが羽生選手のものよりも優れている”と言いたいかのような見え方です。

極めつけは、このジャンプのデータが、”両選手が16-17年シーズンに跳んだベストジャンプのものという至極曖昧なもの”だったこと。

分析者は宇野選手の所属する中京大学の教授だったため、宇野選手を恣意的に持ち上げようとしたのではないかという議論が瞬く間に広がりました。

5回転を跳べるかどうかの議論をしたかったはずなのに、両選手の比較とも取れる図を載せてしまったことで、意図しない形で対立構造を作り出してしまい、しかもデータの信憑性も無かった。。。

これを見た羽生選手ファンの心は穏やかではないでしょう。

続報記事が与えた更なる不信感

この記事を受けて、直接朝日新聞や分析担当の教授にお問い合わせをした方も少なくないようで、2月1日に弁明とも取れる続報の記事((限界を超える 反響を受けて)「5回転」の可能性、探る 羽生・宇野選手のジャンプ研究)があがりました。が、これがまたファンの不信感をさらに加速させます。

 

湯浅さんによると、解析のために、2016年~17年シーズンのグランプリシリーズなど公式試合のうち入手できた複数の映像に加え、宇野選手については練習の映像も集めました。
そのなかから、試合での採点や元選手らフィギュア専門家の意見をもとにベストと考えられる4回転ジャンプを選びました。
羽生選手については16年9月のオータム・クラシックで跳んだ4回転ループ、宇野選手については17年4月の練習で跳んだ4回転フリップです。

ただ、これらは、あくまでも入手できた映像をもとに選んだものです。
シーズン中の全ジャンプを検討したわけではなく、ほかに素晴らしいジャンプがあった可能性もあるといいます。

記事で羽生選手と宇野選手のデータを用いたのは、両選手の比較が目的ではなく、ソルトレークシティー五輪(02年)当時と比べて、現在の二人のトップ選手のジャンプがいずれも5回転の実現に近いところまで来ていることを示すためです。
湯浅さんは「今後、両選手の同じ種類のジャンプを解析するなど解析の幅を広げたり、精度をさらに上げたりしていきたい」と話しています。

 

なるほど、分析の比較は羽生選手は16年9月のオータムクラシックの4Lo、17年4月の練習で跳んだ4F

それでは一体何故同じ種類のジャンプで比べないのか、、、?

また、羽生選手のデータは試合でのジャンプに対し、宇野選手のものは何故練習でのものなのか、この比較は適切なのか?という意見が多かったように思います。

 

元々比較で使いたかった論文で対象になっているジャンプはトゥループ。トゥループは6種類のジャンプの中で最も難易度が低いジャンプと位置づけられています。

羽生選手・宇野選手とも4Tを跳ぶことができるので、先行研究との比較、また5回転の可能性について言及ということを考えるならば、4Tの中からベストなものを選ぶべきだっだということは明らかでしょう。

 

もう一つの、練習と試合の比較が環境が違うため不平等ではないか?という意見に関しては、至極真っ当なものだと考えます。

ただ、元の論文でも、公式練習の試技と本番の試技を対象に含めていることは事実です。そのためこちらの論文に準拠したと言われれば”本の少しだけ”理解が出来ます。

本の少しだけ、と加えたのは元の論文の場合はそうせざるを得ない理由が明確であり、今回の分析とは状況が異なるからです。

 

まず、元論文では02年ソルトレイクシティオリンピックの試合のみを対象にしているため、大会での4Tの成功試技に限るとデータの数が少なくなってしまうことが挙げられます。

 

た、元論文の目的は”4Tと3Tの比較をすること”です。3Tはこのレベルの大会に出場する選手には簡単であり、実際の演技中でかつ単発のジャンプで成功するという条件を満たしたデータを得ることが非常に難しいのです。

そのため、”直前の練習で4Tを練習する前の確認として、選手が跳んだ3T”を解析に使用したという流れがあります。

 

論文をしっかり読めばこの点は明らかなので、”この論文でも練習試技を使っているではないか!”と言われても完全には納得できません。(というか書いている人は大学の教授ですからね。。)

 

国内で第一人者不在のフィギュアスケートの運動学的研究

最初の記事に関しても、またこの続報の記事を見ても、到底ちゃんと分析されたものではないというのは明らかです。

一流選手のデータというのは限られた人しかアクセスできない貴重なものです。それをないがしろにしていたと考えられるような記事が出てしまったことは、僕としては非常に悲しいです。是非別の機会で不明点をクリアにした分析を公開してほしいと思います。

この一件で、いち早くフィギュアスケート選手やファンの方々にもっと役に立つような研究をしていきたい!という思いが強くなりました。実験環境など色々な制約がありますが、これから頑張っていきたいと思います。

ご意見やご感想などありましたらお問い合わせフォームよりご連絡お願いします。

ABOUT ME
@hironowa_ru
修士まではスポーツバイオメカニクスを専攻。新卒で総合スポーツ用品メーカーに入社し、デジタル分野の新規事業開発に従事。現在は日本代表選手団に向けた映像分析サポートを行っており、大学院でコンピュータビジョンの観点からスポーツ映像解析の研究を行っている。
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