フィギュアスケート

【論文紹介】フィギュアスケート靴の研究はどんなものがされているの??

はじめに

今回はフィギュアスケートの研究論文の中でも「用品」、その中でもスケート靴の開発についてのものを紹介します。

 

選手から見たスケート靴事情に関しては、元選手の橋爪さんのブログでも記事で最近取り扱われていましたね!

 

 

この記事にもあるように自分に合わない靴を履いていると、パフォーマンスが低下するばかりか、怪我につながる恐れもあるのです。僕もスケートを始めて、靴で苦労している人を多く見てきました。。。

 

「フィギュアスケートの靴に関する研究ってどれほどされているのだろう?」

学部生の頃フィギュアスケートの研究をしたい!と思ったときに最初に思い浮かんだ疑問でした。

 

今回はそのときに読んだ論文を取り上げます!

 

想定読者

  • フィギュアスケート靴に興味がある方
  • スポーツバイオメカニクスの分野に興味がある方
  • フィギュアスケートのジャンプの違いや略称について知っている方

都合上すべてを細かく説明できているわけではない点ご了承ください。

また用いる図表は基本的に論文から借用しています。

 

論文基本情報

Title:

The Effects of Articulated Figure Skates on Jump Landing Forces

 

Authors:

Dustin A. Bruening

James G. Richards

(University of Delaware Human Performance Laboratory)

 

Journal:

Journal of Applied Biomechanics, 22:285-295.

 

Year:

2006

 

怪我の要因の一つはスケート靴の硬さと形状

著者らがフィギュアスケートと障害に関する先行研究を調査したところ、ほとんどすべての論文で”スケート靴の硬さ”との関係性を示唆していたということでした。

 

現在(論文発表前の2006年以前)のフィギュアスケート靴は、足首の矢状面方向(体を左右に2つに分けるように、縦方向に切る向きの断面)の動きが制限される構造になっており、着氷の際の衝撃を効率よく和らげることができないと指摘しています。

 

フィギュアスケートとは別の研究ですが、ジャンプの着地に関する先行研究では、関節運動が地面反力の最大値を減らすことにつながり、特につま先からかかとにかけての着地動作には足首の関節の動きが重要になることが明らかになっています

 

これを受けて、本論文では足首の矢状方向の動きを制限せず、より地面反力を吸収できるようにするため、フィギュアスケート用の関節付きの靴(Articulated boot、下図参照)を試作しました。

 

図 試作品のスケート靴 論文より引用

 

このプロトタイプを用いて次にあげるジャンプの試技を行い、通常の靴の場合と比べて地面反力がどう変化するかを調査しました。

また、下表にある運動学的変数を算出し、どのようなメカニズムでそうなるのかを明らかにすることを本研究の目的としています。

<実験方法>

  1. <地上>
    30cmの木の箱の上から半回転して、床反力計の上に片足で着地(スリージャンプのような形)
    →地面反力の計測
    身体特徴点にマーカーをつけ、試技を撮影。各マーカーの位置座標を取得。
    →下表の運動学的変数を算出する
  2. <氷上>
    身体特徴点にマーカーをつけ、1A, 2T, 2A(一部被験者のみ)の試技を撮影。各マーカーの位置座標を取得。
    →運動学的変数のみ算出
    (氷上では反力を計測するのが難しい、、、)

図 氷上での試技の様子

※ちなみにこの試作品はジャクソン(Jackson Ultima Skates)が1年以上かけて作ったものだそうです。すごいですね。。。

 

表 算出する19個の運動学的変数の定義 

実験結果:踵接地の地面反力の最大値は減少

 

<地上実験>

  • 踵接地での地面反力の最大値(Heel Strike)、負荷率(loading rate)は減少!つま先接地での地面反力の最大値(Toe Strike)では差は見られなかった。          図 代表的な被験者の地面反力のグラフ(論文図に一部加筆)
  • 使用するブーツの違いにより、算出した19個の運動学的変数のうち、つま先接地局面での足首の背屈角度つま先接地局面から踵接地局面までの時間踵接地時の足首の角速度つま先接地から踵接地後の3フレームまで足首の角度つま先接地から踵接地後の3フレームまで臀部の角度重心の垂直方向の変化つま先接地前3フレームからつま先接地までの膝の角度の7個で、有意差(p < 0.05)が生じた。

これらの7個の運動学的変数が、地面反力の低減に何かしらの影響を与えている可能性がありますね!

しかし、、、

<氷上実験>

  • 使用するブーツの違いにより、算出した19個の運動学的変数のうち、踵接地後の膝関節の最大屈曲ジャンプの高さの2個でしか有意差が現れなかった。。。

氷上実験では、地上での実験のような靴の違いによる差は見られなかったようです、、、

なぜ地面反力が下がったかのメカニズムは、、、

本研究は9人の被験者を対象に行い、統計的に処理をすると上のような結果となりましたが、一人ひとりの結果は大きく異なったとのことです

まず地上での地面反力計測の結果を見ると、地面反力が増加している被験者も見受けられます。

図 個人ごとの地面反力
6〜9の被験者については、有意に減少していない

しかしながら、被験者1〜5のグループと被験者6〜9の2つのグループ間で、運動学的変数を比べたところ、グループ間の違いはなかったとのこと

また、被験者2と9は同様の傾向(つま先接地局面での足底屈曲の増加、つま先接地局面から踵接地局面までの時間の増加、ほぼすべての関節可動域の増加)を見せるも、2は地面反力の減少、9は増加となったとか。

さらに、被験者4の場合は、運動学的変数に差はなかったものの、地面反力は優位に減少したといいます。

このように、今回の結果からは、個人間での比較においても地面反力減少のメカニズムを明らかにすることは難しいとしています。

筆者らはこれらの原因を、スケート靴の変化への対応にあるとしています。

本研究では試合のスケジュールなどとの調整もあり、プロトタイプの靴で練習する期間は限られていたため今まで慣れ親しんだ着氷の方法から関節を使っての着氷に変更するには時間が足らなかったのではと推察しています。

ただでさえ、スケート靴を別のものに変えて練習するというのは選手からすると非常に大変なことですからね。。。

終わりに:スケート靴に変革は起こるのか、、、

この論文が世に出たのは06年。果たしてこの研究はそのあとどうなったのか?、この研究を行った教授に問い合わせをしてみました。

以下がその教授からの返答です。

Good question – we ended up working with Jackson Ultima to build an articulated skating boot. They sold the boot for a few years – one year our national champion even wore them. But, the parts on the boot kept breaking and they unfortunately  discontinued it a few years ago.

I’d still like to see it work. I think the theory and design are good, but it would require someone to build it better.

ジャクソンは今回の試作品のようなシューズを実際に数年売っていたそうです!!(これは知らなかったので、問い合わせてよかった!笑)

そして、一年間アメリカ国内のチャンピオンの選手が履いていたとのこと。しかし、靴が壊れてしまうトラブルにより数年後にはこのようなタイプのシューズは販売中止に。共同研究もすでに終わっているそうです。

教授の考えでは、理論とデザインについては問題ないと考えているようで、さらに良い靴を作る人が必要だと言っています。

 

氷の上に図形を正確に描けるかを競うコンパルソリーが起源であったフィギュアスケート競技も今や大きく変化を遂げていますが、靴に関しては百年以上大きな変化がないと本論文では指摘されています。

今後どのようにフィギュアスケート用品が変わっていくのかにも注目ですね!(ブレードに関しては小塚崇彦さん監修のものがすでに開発されています。こちらも期待大です!)

 

僕自身一番最初に読んだ論文なので懐かしい気持ちになりました。いつか自分もこのような研究に携われるように、、、今後も頑張っていきます!

ABOUT ME
@hironowa_ru
修士まではスポーツバイオメカニクスを専攻。新卒で総合スポーツ用品メーカーに入社し、デジタル分野の新規事業開発に従事。現在は日本代表選手団に向けた映像分析サポートを行っており、大学院でコンピュータビジョンの観点からスポーツ映像解析の研究を行っている。
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